洞窟

もう10年くらい前のことだと思う。

マンガとかゲームとか、そのときはすごく楽しむけどのちのちあんまり記憶してないんだよねって言ったら「なにが楽しくて読んでるの?‍w」と返されたことがある。その言葉に傷付いたとかはぜんぜんなくて、返し方が妙にツボって笑ってしまった。

 

いろんなところで散々言っているので友人などは知っているだろうが、わたしは記憶にまったく自信がない。

夢中になって読んだマンガも、笑って泣いて苦労してクリアしたゲームも、好きすぎて何度も観た映画も、推しのライブも、そのときは全力で楽しんでいるはずなのに、気づくとわたしの中からさーっと砂みたいに散らばってどこかに行っている。

だから例えばまわりが「あのマンガのあのシーンが」とか「あのゲームの音楽が」とか「あの映画のあの展開が」とか言っていても、なんだかぼんやりしてしまって、頭の中のわたしは体育座りで砂粒みたいなのをいじって黙っている。

もちろん砂粒の中に思い当たるものがあるときもあって、そのときはここぞとばかりに話にのれることもある。

 

難儀な頭だなと思う。

でも、クソポジティブに考えれば、もしかしたらこれからどデカい容量を使うようないい出来事があって、そのためにずっと頭の中を空けておいてたのかもしれない。

どうせなら今までのいやだったこととかを砂粒になって外に掃き出してしまえればいいのにとも思うけど、それはなかなかむずかしくてやっぱり難儀だなと思う。

今はまだ重い重い塊で、どこかにいってしまえと蹴っ飛ばしても自分の足が痛いだけだ。それでもコチコチ少しずつ削ったり、もしくはサンドペーパーで磨いてやったらそのうちなんとかなるのかもしれないなという気もする。

 

最初の話とはずれてしまったが、記憶がなくっても、そのときは間違いなくわたしはそれに夢中になってるからいいかって今は割り切っている。

ガチガチの岩みたいな重たい記憶も、時間をかけて磨けばそれなりに丸くてぴかぴかで触り心地のいい石になるだろう。

あとはそのうち、でっかくてふわふわな記憶がそこにやってくるのを、今は少し楽しみにしている。